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農と食を結ぶ情報誌「とさのうと」
Vol.16
爪を切るのは特注の打ち刃物。牛を3本足で立たせ、手槌でトントンと包丁を叩いて切ります。
ひろげよう、ツメ吉の輪。
「これから幻の削蹄師が来るよ」。牧場主の小松正幸さんが放った言葉に、夜明け前から取材をしていたスタッフは、いやおうもなく惹き付けられました。年に4回頼んでいる削蹄の日が、なんとこの日だったのです。スタッフは取材時間の延長を決め、待ち受けました。

中村の方から来られた削蹄師の長津幹雄さんは、デニムの上下を着て、額にはライトを付けた独特のスタイル。この日は10頭ほどの削蹄、つまり爪を切って整える作業をするそうです。予約は3ヶ月先まで埋まり、愛媛県のお客さんが8割だそう。一般には牛を専用の囲いへ連れて行って縛ってから作業しますが、長津さんが師匠から受け継いだ方法は、牛がふだん暮らしている牛舎でそのまま。自由に見える分、技術はもちろん体力も必要だし、牛は大きいので危険もあります。

包丁を使う削蹄の技を見学しながら、牛にとって年に2回ほどの削蹄がどんなに大切か、爪が伸びるとまっすぐ立てなくなって体重のかけ方が偏って体がゆがんだり、妊娠がうまくできなかったり、乳量が落ちたりすることなどを聞かせてもらいました。逆に考えれば、きちんと爪の手入れをしてストレスを減らせば、乳量が増えるということで、小松さんも数字をあげて力強く肯定していました。
小松さんが長津さんに依頼するようになって3年目。小松さんも相当な牛キチですが、爪キチの長津さんとは最初から意気投合したとか。お互いに、「あんたもキチが付くねえ」と笑い合う姿に、プロを極めた人の間に通う空気が見えました。

長津さんに削蹄師になるには?と質問すると、「師匠に付いて1万頭の爪を切ったらなれるかな。体を作るだけで3年はかかります。後は忍耐。牛を楽にしてあげるという思いやりが一番。牛がいる限り、誰かがやらないといけない仕事です」。ここで爪キチのキチが、「吉」に変換されました。

「答えは足の裏に書いてある」と長津さん。台地に芯が通るようにしっかりと立っている小松牧場の牛さんたちを見て、そこから生まれる牛乳という食品への信頼が、いっそう深まりました。
削蹄は大事な牛への投資。小松さんのようにそう考えてくれる牧場主が一人でも増えることを願った取材でした。